肢体不自由の障害年金|関節可動域と日常生活動作の評価ポイント
肢体不自由による障害年金の申請において、「関節可動域(ROM)の数値が低いのに等級が認められなかった」「日常生活でこれほど苦労しているのに審査に反映されない」というご相談を当事務所では多く受けます。肢体の障害は、数値として計測できる部分と、生活実態として表れる部分の両方を適切に記録・申告することが、正当な等級を得るうえで非常に重要です。本コラムでは、肢体不自由の障害年金審査において関節可動域とADL(日常生活動作)がどのように評価されるかを、実務の視点から解説します。
1. 肢体不自由における障害年金の基本的な考え方
障害年金における「肢体の障害」とは、上肢・下肢・体幹・脊柱の機能障害を広く含みます。原因疾患は多岐にわたり、変形性関節症、関節リウマチ、骨折後遺症、脊髄損傷、脳血管障害による麻痺など、様々な疾患が対象となり得ます。
審査の根拠となるのは、障害認定基準(国民年金・厚生年金保険障害認定基準)です。この基準では、肢体の障害について「機能の障害」と「変形・欠損」の観点から等級が定められており、単純に「痛みがある」「動かしにくい」という主訴だけでは等級には結びつきません。客観的な指標としての関節可動域と、生活への影響を示すADLの双方が審査の材料となります。
2. 関節可動域(ROM)の数値はどう使われるか
関節可動域(Range of Motion:ROM)は、各関節がどの方向にどれだけ動くかを角度で示したものです。障害認定基準では、肢体の機能障害を判定する際に、日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が定める「関節可動域表示ならびに測定法」に基づいた数値が参照されます。
たとえば上肢の機能については、肩・肘・手指などの各関節における可動域制限の程度が評価対象となります。下肢についても、股関節・膝関節・足関節の可動域が重要な指標となります。
審査では、「健側(障害のない側)の可動域と比較して、患側(障害のある側)がどの程度制限されているか」が判断材料の一つとなります。一般的に、主要な関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されている場合は、一定の機能障害として評価される可能性があります。ただし、可動域の数値だけで等級が機械的に決まるわけではなく、後述するADLへの影響も合わせて総合的に判断されます。
なお、診断書に記載されるROMの数値は主治医が測定・記入するものですが、測定日の体調・検査方法・記載の精度によってばらつきが生じることがあります。当事務所では、記載内容に疑義がある場合、主治医への確認や追記依頼をご提案することがあります。
3. ADL(日常生活動作)が審査に果たす役割
ADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)とは、食事・整容・排泄・入浴・移動・着脱衣など、日常生活を送るうえで基本的な動作の総称です。障害年金の診断書(肢体の障害用)には、これらの動作について「自立/一部介助/全介助」などの区分で記載する欄が設けられています。
関節可動域の数値が等級の境界線上にある場合、ADLの制限がどの程度かが等級判定を左右することがあります。たとえば、可動域制限が数値的には軽度であっても、実際には歩行が著しく困難であったり、上肢の動作に多大な時間と労力を要する場合は、生活実態として重く評価される可能性があります。
ADLの記載は、診断書の「日常生活における動作の障害の程度」欄に反映されます。この欄は主治医が記入しますが、主治医が日常生活の実態を十分に把握していないケースも少なくありません。受診時に症状の良い状態しか見せていなかったり、「なんとかできています」と伝えてしまうと、実態より軽い記載になることがあります。
当事務所では、申請前に日常生活の状況を詳細にヒアリングし、必要に応じて主治医への情報提供文書の作成をサポートすることがあります。
4. 診断書作成で見落とされやすいポイント
肢体不自由の診断書作成において、実務上よく見られる記載上の課題をまとめます。
- 可動域の測定が「最大努力時」でなく「安静時」で行われている:疼痛や筋緊張により、実態として動かせる範囲が制限されていても、計測方法によって数値に差が出ることがあります。
- 両側性の障害なのに片側しか記載されていない:関節リウマチなど複数関節に障害がある場合、記載漏れが生じることがあります。
- 「杖使用」「手すり使用」などの補助具の記載がない:補助具を使用してようやく動作できている実態が反映されないと、自立度が高く見える診断書になることがあります。
- 日によって状態が変動する疾患(RAなど)の「悪い日」の状態が反映されていない:慢性疾患では受診日が必ずしも最悪の状態とは限りません。
診断書は、原則として作成した医師の判断によるものであり、当事務所が内容を変更させることはありません。ただし、事実に基づいた適切な情報を主治医に伝えることで、より実態に即した記載につながる可能性があります。
5. 病歴・就労状況等申立書でADLを補完する
診断書と並んで重要な書類が、「病歴・就労状況等申立書」です。この書類は請求者本人(または家族)が記載するもので、発症から現在までの経緯、日常生活の制限、就労上の困難などを具体的に記述します。
肢体不自由の申請においては、この書類でADLの実態を丁寧に補足することが有効な場合があります。たとえば、「調理は立位が困難なため椅子に座って行っており、30分以上の作業は痛みで中断する」「外出時は必ず杖を使用し、100メートルを超える歩行は困難」といった具体的な記述は、審査担当者が生活実態を理解するうえで参考となり得ます。
抽象的な表現(「日常生活が不便」「歩くのがつらい」)では審査に反映されにくいため、「どのような動作が」「どの程度の時間・距離・頻度で」「どのような支障をきたしているか」を具体的に記載することが重要です。当事務所ではこの申立書の作成支援も行っており、実態を正確に伝えるための文章構成をともに検討することがあります。
6. 更新(再認定)時の注意点
障害年金には、有期認定の場合に一定期間ごとに更新審査(再認定)があります。肢体不自由の障害は、疾患によっては症状が変動することがあり、更新時に等級が変更となる可能性があります。
更新時にも、関節可動域の現状とADLの実態を診断書・申立書に正確に記載することが求められます。「以前の申請時と症状は変わっていない」と感じていても、診断書の記載内容が変わることで審査結果が変わることがあります。更新通知が届いた際には、早めに準備を始めることをお勧めします。
また、症状が悪化した場合は更新を待たずに「額改定請求」を行うことで、等級の見直しを求められる場合があります。現在受給中の方でも、生活状況が大きく変化した場合は一度ご確認いただく価値があります。
※本記事は一般的な解説であり、個別の結果を保証するものではありません。個別の申請可否・受給可能性は個別事情により異なります。
執筆:東亮介(社会保険労務士/社労士登録番号 第27130052号)