働きながら障害年金を申請して不支給になる理由と対策
「仕事をしていると障害年金はもらえない」と思い込んでいる方は少なくありません。しかし、就労の有無は障害年金の受給要件の一つにすぎず、働きながらでも支給される事例は実際に存在します。一方で、就労していることが審査に影響し、不支給となるケースも数多く見受けられます。当事務所では、就労中の方からの相談を多く受けてきた経験から、不支給になりやすい理由とその対策について、以下に整理してお伝えします。
1. 就労の事実が「日常生活能力あり」と判断される
障害年金の審査において、精神疾患や内部障害の場合、「日常生活能力の程度」は支給・不支給を左右する重要な評価軸です。審査を担当する日本年金機構は、診断書の内容だけでなく、申請者の生活実態も総合的に確認します。
就労している事実は、「一定の社会生活が送れている」という証拠として受け取られる可能性があります。特に、フルタイム勤務・正社員・一般就労といった働き方をしている場合、審査担当者に「日常生活に著しい支障はない」と判断されるリスクが高まります。もちろん、就労しているからといって必ず不支給になるわけではありませんが、就労の実態が正確に伝わらないと不利な結果につながることがあります。
2. 診断書と実態のギャップが生まれやすい
不支給になる理由として特に多いのが、診断書の記載内容と実際の生活・就労実態のズレです。主治医は診察室での様子を中心に診断書を作成するため、通院時に「問題なく話せている」と映っていれば、実際の就労場面での困難さが反映されにくくなることがあります。
たとえば、職場での配慮(業務内容の限定・短時間勤務・休憩の自由化など)によってかろうじて就労できている場合でも、そうした事情が診断書に記載されていなければ、審査上は「通常どおり就労できている」と判断される可能性があります。主治医への丁寧な情報提供が不可欠です。
3. 精神疾患における就労中の審査傾向
障害年金の審査において、精神疾患(うつ病・双極性障害・統合失調症・発達障害など)は、就労の有無が審査結果に与える影響が特に大きいとされています。これは、精神疾患の障害等級判定において「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」が診断書上の主要評価項目となっているためです。
日本年金機構が公表している「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」では、就労状況についても考慮されることが明記されています。具体的には以下のような就労実態は、相対的に軽症と判断されやすい傾向があります。
- 一般雇用でフルタイム勤務を継続している
- 職場での特別な配慮や支援を受けていない
- 欠勤・遅刻・早退がほとんどない
- 業務内容・職種に大きな制限がない
逆に言えば、就労していても障害者雇用・短時間勤務・多くの配慮を受けている場合は、その実態を正確に伝えることで審査上の評価が変わる可能性があります。
4. 不支給になりやすい申請パターン
当事務所が相談を受けてきた事例の傾向から、就労中の申請で不支給になりやすいパターンをまとめると、以下のような点が挙げられます。
- 病歴・就労状況等申立書が簡素すぎる:就労上の困難さや配慮の内容が記載されておらず、審査担当者に実態が伝わっていない
- 主治医への情報提供が不十分:職場での状況や日常生活の支障を伝えないまま診断書を作成してもらっている
- 初診日の証明が不十分:就労中に初診日が設定されるため、当時の状態と現在の状態の連続性が証明しにくい
- 障害認定日時点の状態が確認されていない:遡及請求を狙う場合、認定日時点の診断書の内容が就労実態と乖離している
5. 不支給を避けるために申請前にすべきこと
就労中でも適切な準備をすることで、審査において実態が正しく評価される可能性が高まります。申請前に確認・対応しておきたい主なポイントは以下のとおりです。
①主治医との情報共有を丁寧に行う
職場での就労状況(業務の種類・時間・配慮の内容)、日常生活での困難(家事の困難・睡眠障害・対人関係の問題など)を具体的に伝え、診断書にできる限り反映してもらえるよう働きかけることが重要です。
②病歴・就労状況等申立書を丁寧に作成する
この書類は申請者本人が記入するものであり、診断書では伝えきれない生活や就労の実態を補足できる重要な書類です。就労中であっても、どのような配慮があるか・どのような困難を抱えているかを具体的に記述することで、審査において考慮される可能性があります。
③障害者雇用・就労支援の利用実績を整理する
障害者雇用枠での就労、ジョブコーチの支援、就労移行支援サービスの利用など、外部支援を受けている実態は、審査上の重要な参考情報となることがあります。
6. 不支給通知を受け取った場合の選択肢
万が一不支給の通知を受けた場合でも、手続きは終わりではありません。審査請求(不服申立て)という制度があり、処分を知った日の翌日から3か月以内に申し立てを行うことができます。審査請求では、不支給の判断が適切であったかを社会保険審査官が再審査します。
また、審査請求でも認められなかった場合は、さらに再審査請求(社会保険審査会への申立て)、あるいは処分取消訴訟という選択肢もあります。ただし、これらの手続きは専門的な知識が求められるため、早期に専門家へ相談することが望ましいと考えます。
就労中の障害年金申請は、準備の精度が結果を左右することがあります。「働いているから無理」と諦める前に、ご自身の状況が受給要件を満たす可能性があるかどうか、専門家の目線で確認されることをお勧めします。
※本記事は一般的な解説であり、個別の結果を保証するものではありません。個別の申請可否・受給可能性は個別事情により異なります。
執筆:東亮介(社会保険労務士/社労士登録番号 第27130052号)